櫛挽ヶ原物語

私の住んでいる櫛挽開拓地について書かれたガリ版刷りのミニ郷土史”櫛挽ヶ原物語”を読んだことがある。岡部町の大谷さんによるもので、誰に頼まれたわけでもなく個人でこつこつと調べ、自分でガリ版を刷った手作りのものである。使用している紙もいろいろと寄せ集めで、なかには一度使用済みの裏紙を使ったものもあった。

大谷さんは郷土史の専門家ではないが、そこには開拓以前のこの土地にまつわる伝説から始まって、開墾中のことを開拓者から直接聞いた話しが書き留めてあった。この土地が昔から水で苦労していたことに多くのページがさかれていた。夏から秋にかけての台風による大水、それがなければ渇水、それにまつわる水争いのこと。この土地は地下水位が低いので田んぼを作ることはできなかった。開墾地の畑作はその年の降水量によって左右されていた。

戦後60年たった現在の櫛挽開拓地は先人の努力によって素晴らしい環境に生まれ変わった。台風による大水は排水路によってさばかれ、渇水時は常時荒川からの用水路によって水が供給される。防風林を含めて約400町歩(ヘクタール)に及ぶ開拓地には、現在約300世帯が住んでいる。

今、この地区の人たちは改めて自分たちの住む場所の価値を見直している。苦労の多かった初代開拓者の作り上げたこの土地が、他にかけがいのない環境を持っていることを。畑あり、防風林あり、水あり、商店なし、広告看板なし……。ミニ郷土史”櫛挽ヶ原物語”は今でも多くのことを開拓地住民に語りかけている。