たまご屋おやじの独り言 2004年12月

たまご屋おやじの独り言 2004年12月

31/December/04
ぶらりぶらり通信 何はともあれ今年も暮れる

私ども鶏を飼って業としている者にとって今年はまさに大波乱の年であった。大袈裟に言えば一年のうちに地獄と天国を行ったり来たりした想いがする。なんとも忙しい事であった。

事の始まりは今年の正月、山口県の養鶏場で日本では79年ぶりに発生した鳥インフルエンザである。これが京都の農場でも発生し、連日新聞テレビで大騒ぎになり、鶏卵・鶏肉は売れなくなり価格は最低値をつけた。

世界的に見れば日本は鳥インフルエンザを経験した諸国のなかで最も上手にこれを制御することが出来た。これは世界中でも日本は優れた防疫の仕組みを国県民間が持っていて、それが見事に機能したからに他ならない。一度この病気がまん延すると制御することは難しい。イタリア、オランダ、カナダではそれぞれ数千万羽の家禽類が犠牲になったし、近隣の東南アジアでは1億羽を犠牲にし未だに制御できていないどころか人間の犠牲まで出ている。これに対し日本では4農場30万羽以内の犠牲でとりあえずこれを制御してしまった。

鳥インフルエンザについてあまりに新聞・テレビが騒ぐので、その風評被害と鶏卵価格の低下にたじろぎ養鶏を止める者が続出した。ところが騒ぎがおさまって見ると、今度は鶏卵の供給不足が秋頃から表面化した。物が無くなれば当然値段が上がる。鶏卵価格は暴騰した。相場の神様は実に心憎い。鶏卵の安値続きで養鶏家に元気が無くなると、これに活を入れるために高値をつける。日本から養鶏場が無くならないように配慮してくださっている。

長年養鶏をやっていると有難いことに、鶏卵相場は実に公平に出来ていて、高低はあるが平均すれば少々の利益が出ることがわかる。ただしそれには他の仕事同様に多少の努力が必要であることも判らせてくれる。何はともあれ今年も暮れる。


18/December/04
たまご屋さんのホームページ

物好きに、たまご屋さんのホームページを始めてからこの12月で丸5年になる。はじめ農場の若い連中が仕事の合間に遊び半分で始めたものだがいまだに良く続いている。いま担当の者が産休になり、ピンチヒッターとして娘が手伝ってくれたりしているが、プロに頼まず最初から手作りなのでそれは如何にも素人っぽく垢抜けしていない。

ホームページの中身は農場の卵を売りたいというよりも、どちらかというと農場通信と言った感じで、まるで商売っ気がない。したがってホームページが大きく商売に貢献したこともない。素人がホームページを作り続けるにあたって一つだけ心がけたことがある。「卵と同じでとにかく中身の鮮度を良くしよう」。どんなにプロが作った見事なそれでも、いつも更新されてなければたちまち見に来てもらえなくなってしまう。素人は鮮度だけが勝負である。

張りきってみたものの、情報の鮮度維持は意外と難しいのである。仕方なしに「たまご屋おやじの独り言」をホームページに最低週一回書く羽目になった、それはこの「nwatori ML」であったり[ぶらりぶらり通信」であったりする。5年間も飽きずに続けていると、インターネットは不思議な世界で、予想もしていなかった人たちと御縁ができたり、その輪が広がったりしている。

5年間の「たまご屋おやじの独り言」を眺めてみると、それは業界の事件簿であったり、ある意味の自分史であったりする。「よく自分の馬鹿さ加減を人前に晒せるね」と言われることがあるが、その恥ずかしさよりも得られるご利益の魅力には勝てない。


18/December/04
ぶらりぶらリ通信 万宝料理秘密箱(玉子百珍)現代版

 仕事仲間の安田勝彦さんが面白い本を送ってくれた。題して「万宝料理秘密箱」(玉子百珍)現代語訳、料理再現 奥村彪生(あやお)Newton Press社。
http://www.newtonpress.co.jp/

 かねがね日本人が世界中で一番タマゴを食べてくださるのは、朝昼晩にその豊富なメニューがあるのも大きな理由と思っていた。
 この本はタマゴ料理のテキストとしてはおそらく世界で最初のものと思われる。「万宝料理秘密箱」は、1785年(天明5年)器土堂主人なる長崎卓袱(しっぽく)料理の粋人によって書かれた。この中の巻ノ二から巻ノ五まで103種類のタマゴ料理が紹介されている。世に言う「玉子百珍」である。

 原本を「たまご博物館」(http://homepage3.nifty.com/takakis2/hyakutin.htm)で見ることが出来るが、言葉も難しく読み取りにくい。現代版 万宝料理秘密箱(玉子百珍)はその料理を再現し江戸後期の器(陶器,椀)に盛り付けてあり、写真も見事なものである。これを見ていると、江戸期の日本人は実に豊かな想像力を持っていたことがわかる。玉子料理を楽しむばかりでなく、遊び心がそのなかに含まれている。見ているとこちらまで嬉しくなってくる。

 来年アムステルダムで開催される世界たまご屋会議(IEC)にこの本を持って出かけ、自慢してこよう。「日本では200年以上も前からタマゴ料理の研究をしており、当時既に100種以上のレシピがあったのだぞー」。そしたらポルトガルのたまご屋は「カステラを日本人に教えたのは俺のほうだぞー」と言い返すに違いない。


11/December/04
幻の”タマゴの歌” その2

30数年まえのレコードがやっと見つかった。正確なレコードの名はタマゴのマーチ「タマゴが好き好きとっても好き」であった。






「タマゴが好き好きとっても好き」
作詞 サトウ 八チロー 作曲 中村 八大 
制作 全国鶏卵消費促進協議会

        たまごがすきすき
        とってもすき
        まいあさたべてる、めだまやき
        かごからみている
        カナリヤも
        たまごのきみと
        おなじいろ
        クルリンクルクル
        おなじいろ
        たまごがすきすき
        とってもすき


以下二番三番と続く。我が家の五人の子供たちは三十年前この歌を聞きながら育ったので今でも歌えるという。ある意味ではとても怖い話だ。

レコードを見つけるのに四苦八苦していたら、桜井タクジ先生からここに聞いてみたらとアドバイスを頂いたり、山田賢吾さんから子供むけに「たまごまごまご」という歌があると連絡があったり、有難いことである。私のパソコン師匠のゴリさんに頼んで、この古ぼけたレコードの曲をCDに取り直してもらった。この曲をMailに貼り付けて送ることも可能だという。私にはさっぱり解らないが師匠には簡単なことらしい。


4/December/04
「鶏卵トレーサビリティ導入ガイドライン」を読んで

11/30 農水省よりガイドラインが公表された。http://www.maff.go.jp/www/press/cont2/20041130press_1.htm
読んでみると「さてもさても鶏卵トレーサビリティ(生産履歴追跡システム)とはお金と手間のかかるものなり」が素直な実感である。

なにも鶏卵トレーサビリティという難しい言葉を持ち出さなくても、以前から養鶏場では自分のタマゴを高く売るために品質維持、安全性の確保には大変気を使っていたし、リスクのあるタマゴを売れば結果は自分のところへ返ってくるので、それを取り除く努力をそれぞれしてきた。ガイドラインはこれを消費者の人たちにとって眼に見える形でそれを表示し、その信頼を得るのが主旨であるので大いに結構である。

ガイドラインによれば、最高レベルの鶏卵トレーサビリティは一鶏舎単位まで生産履歴を遡るものであるが、リスクの所在を小範囲に限定できれば対策費用も結果的に少なくて済むという理屈らしい。鶏卵生産農場によって、鶏舎単位あるいは農場単位で対応することになるが、要はその農場内にリスクの所在を常時チェック出来る仕組みを持っているかどうかがより大事である。

どんなに立派な鶏卵トレーサビリティシステムを作り上げても、最終的には消費者皆さんの農場経営トップに対する信頼性がなければ絵に描いた餅になってしまう。いちいちパソコンを使ってタマゴパックにあるコードNoをチェックしなくとも、あの親父のいる農場のタマゴなら安心であると信頼を得ることが先であると思うが……。