熊野古道

熊野古道2月10日、念願の熊野古道を歩いた。まだ暗いうちに紀伊田辺駅前の宿屋を出てバスで小一時間、滝尻王子で降りた。バスの乗客は二人だけで、この停留所で降りたのは私だけであった。その昔、徒歩で京の都から熊野詣でするのに片道一ヶ月近くを要していた。この滝尻王子からいよいよ熊野の霊域が始まり最後の難所となっていた。人々は旅の安全を祈り、前を流れる富田川で身を清め、王子に参拝し難路にとりついた。

出かける前、関東地方は晴天続きで乾燥し、畑は砂嵐が舞っていた。ところがこちらに来てみると雨があったようで空気は湿っていた。この地方は日本有数の降水地帯で山林の樹木を育んでいる。豊富な樹木があってこそ日本の神社、神宮はなりたつと宮下先生が教えてくれたが、熊野を霊域たらしめている理由であろう。

近露王子まで約6時間歩く予定であったが、歩ききれず近くの牛馬童子のところで時間切れとなった。予定していた帰りのバスを逃すとその日に家へは戻れない。道中、山の中では古道の管理人一人をのぞいて人に会うことはなく、ただ木々に吹きつける風の音がするだけであった。嬉しいことに山道はきれいで、たった一つペットボトルが捨ててあったのみ。これを拾ってリュックに詰めたのも熊野の神様のなせる業かもしれない。

山の樹木のなかにいるとどういう訳か落ち着く。日本人には自然を畏れた遺伝子が組み込まれているのだろう。熊野古道はそれを確認させてくれた。