桜の季節

 桜の季節は悩ましい、とにかく落ち着かないのだ。
仕事場に通う櫛挽の街道は,10年前大字総出で植栽したソメイヨシノ満開の時が来た。
身の丈ほどの苗を植えてからもうそんな歳月が経つのか、今では立派な大きさとなって道行く人たちを喜ばせてくれる。
一直線に4Km植えられたそれらはちょっとした見ものである。

まだ親父が生きていた頃であるから20年も経つであろうか、桜の季節に親父が急に「三春の滝桜」が見たいと言い出した。
なんでも樹齢千年に達する桜で日本三大銘木の一つ、福島県にあるらしい。
当時はまだ仕事のことで精一杯でとても桜の花見どころではなかったが、滅多に頼みごとをしない親父のことなのでお袋も一緒にルートバンで地図を頼りに訪ねたことがある、運良くそれは満開であった。
ものも言わずにじっとその滝桜に見入る親父の姿はとても印象に残っている、肝心の桜のほうはびっくりはしたが当時感動したと言うことはなかった。

数百年を越す長寿の桜を見てみると枝垂桜、江戸彼岸桜のたぐいが多い、この「三春の滝桜」も枝垂桜である。
ソメイヨシノであまり長寿なのは聞かない、品種的に新しい物なのか長生き出来ないのかわからない。
皆で手植えした櫛挽の桜はこの先何年花を咲かせ続けるのであろうか。
親父が桜を見たいといった年齢にだんだんと近づいたせいか、このところ桜のことが気になる。

そうだ今年こそ実相寺(山梨県)の神代桜に会いに行こう。
この桜は樹齢二千年と言われる江戸彼岸である、気の遠くなる歳月人々はどのような想いをこめてその花を愛でてきたのであろうか、まことに桜の季節は悩ましい。
「年々歳々花相似、歳々年々人不同」(劉廷芝