花嫁の父

5番目の娘Aが突如彼氏を連れて現れた、「この人と結婚する」という。
娘は結婚するには決して早くない歳になっていたので、親父はひとまず安心した。
「知らぬは親父ばかりなり」でどうも数年前から付き合っていたらしい。
カミさんも人が悪く私には黙っていたらしい、私に喋るとせっかくまとまりかけた話も「ぶち壊し」になることを恐れたらしい。

この娘は誰に似たのか、買い物をする時すこぶる慎重で一つの物を選ぶのに納得するまで何度となく店に通う。
買い物に付き合うとたいてい親父は閉口してしまう、その娘が選んだ男なのだから間違いはないだろうと祈るばかりだ。
式は教会で、その後の披露宴は自宅で質素にやるという、それは気に入った。

我が家では子供たちの結婚式のとき必ず親父のやらなければならない儀式がある、それは披露宴の時「相模の子守唄」を披露することだ。
この子守唄は四十数年前、私たちの結婚式の披露宴で私の親父が唄ってくれたものである。
この子守唄で子供たちを育ててきたので、今日からはあなたに私の子供を預けるからよろしく頼むとの意味合いを込めてそれは唄われる。

いつも出だしは順調に子守唄が進むのだが、いつも途中でおかしくなりぐずぐずになってしまう。
特に今回は末っ子の娘であるから今からどうなることやら心配される。

相模の子守唄ーーー子守りゃ楽なようで辛いもの、朝から晩まで立ち続けー、おカミさんにゃ叱られ子にゃ泣かれ、雨の降る日にゃ宿もなく、近所の軒端で日をくらすーーー