CD

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めったに自分用の音楽CDなど買ったことはないので、私のCD在庫はほとんどゼロであった。
もっぱらカミさんのCD棚から失敬してそれを楽しむ程度であった。
プレイヤー、スピーカーも旧式なもので満足していた。
ところが或る日これに最新式のヘッドフォーンを繋いでみて魂消た、まるで別世界であった。
音楽に興味を持っている人たちには、最近の技術革新は当たり前のことかもしれないが、そうでない者にとってはまさに驚天動地の世界であった。

ヘッドフォーンひとつで驚いているようでは笑われてしまうが、これを頼りにカミさんのCDを手当たり次第に聴いてみた。
そして一つ分かった事は、大げさに言えば「この世界を知らずに死んじまってはえらい損をする」ということになる。
ヘッドフォーンの性能もさることながら、身体の受け入れ態勢も違ってしまったのであろうか。
それは年齢によるものか、あるいは脳卒中によって脳の回路が違ってしまったのか、とにかく音楽が身体に沁み込むのである。

たとえばベートーヴェンの第五交響曲「運命」は今まで何度も聴いている筈である、それなりの感動があったが正直どこか上の空で聴いていた。
ところが今は違う、聴いていること自体が楽しいし、今までであったなら一時間もゆっくり音楽を楽しむことはなかったから、大変な変わりようなのだ。

遅ればせながら音楽の世界に目覚めたわけだが、どのような手順でこの世界に入って行けば良いのかわからないので、とにかく手当たり次第にこれを聴くことにした、そのうち自分の気に入ったものが見つかるであろう。
「生きてると言うことは所詮自分探しの旅」、誰かの洒落た文句ではないが当分ヘッドフォーンは外せそうにない。