China Syndrome

「史上最悪のウィルス」−そいつは、中国奥地から世界に広がる−は今年文芸春秋社より出版された上下巻にわたる大作である。
とり憑かれたように夢中になって読んだ。
著者は米国「タイム・アジア」社の編集長をしていたカール・タロウ・グリーンフェルドとある、母親は日本人であり米国で育った。

この本は2003年1月中国広州に端を発し、またたくまに香港、太原、北京、ハノイシンガポールバンコクトロント、フランクフルトと感染は拡がり800人以上の人を殺したSARS重症急性呼吸器症候群)の発生から終息までを描いたノンフィクションである。
著者はこの時香港に駐在してり、その一部始終を見聞し、世界にその真相を伝える立場にいた。
中国にあっては重大な伝染病の情報は国家機密となっているから、これを犯すと大変なことになる。
そうゆう中での取材活動は伝染病そのものに対する危険性と、国家反逆罪に問われる二重の危険性を含んでいた。

いままでは野生動物固有のウィルスが、中国社会の急激な変化にともない人間にジャンプして「史上最悪のウィルス」になった経過を述べている、そしてそれが文明の利器飛行機によって瞬時に世界中に拡大する様には戦慄さえ覚える。
同時にこのパニック状態のとき中国の社会システムが機能しなかった部分、また機能した部分など単なる伝染病物語だけでなく中国社会そのものの真相に迫っている。
中国のことばかり云えないが、このような危機のとき特に中国官僚の情報隠蔽体質は恐ろしい。

私は商売がらこの物語を、現在世界的に拡大している鳥インフルエンザに重ねて読んでいた。
同じ伝染病であってもその国々がもつ防御機能は違っている、貧困のためまるで無防備な所から体制の整っている所までばらばらである。
運良く日本はSARSを水際で食い止めることができた。

どういう訳か日本語の題名は「史上最悪のウィルス」-そいつは、中国奥地から世界に広がる−というおどろおどろしたものとなっていたが、原文ではシンプルに「China Syndrome」となっていた、中国症候群とでも訳せばよいのであろうか。
中味は単にSARSを追いかけるだけでなく、中国社会の実態に迫るものであり読み応えがあった。