秩父歩き遍路 その二

歩き遍路も二回目ともなると多少余裕がでてくる、朝の一番電車で秩父に向かい御花畑駅で西武電車に乗り換え横瀬駅に着いた。
今日は六番札所のト雲寺から十一番の常楽寺まで歩くつもりである。
前回の雨と雷とは大違い、快晴ですこぶる気分が良い。
武甲山のすぐ麓に寺寺はあり、それを結ぶ山道の傍にはせまい田んぼに水がはられ、蛙がけろけろ鳴いていた、まことに美しい日本の風景である。

武甲山といえば、しばらく見ていない間にその姿を変えてしまった。
セメントの原料として、何十年と削りとられてきた結果の姿である、主に東京をはじめ首都圏のコンクリートビルにその姿を変えている。
昔ここには武甲山という山があったのだと語り継がれることになるのであろうか、まことに人間さまの欲望とは恐ろしいものだ。
つい最近まで私自身がその真っ只中にいたのだからあまり大きなことは言えない。

歩いていると、つくづくこの旅が贅沢なものと気づく。
不思議なことに、歩くことによって血液の循環が良くなるせいか頭のめぐりも良くなるようだ。
事務所や自宅で静かにしている時に考えることと私の場合違ってくる。
まづ、仕事に夢中になっている時代には、歩いて旅することは時間的にも気分的にも出来なかった。
仕事に一区切りつき、年齢的にもその気になったときには、病気その他で身体がいうことをきかないことが多い。
歩いて旅をするチャンスは人生のうち思ったより少ないのかもしれない、相棒のKさんも同じ意見だった。

嬉しいことに秩父遍路道は美しい花々が見られる、農家や普通の家でも個性的な庭が歩く者を楽しませてくれる。
歩きながら、日頃はあまり考えないことを思ったり考えたりする。
お寺で唱える「般若心経」は私にとって意味不明の呪文みたいなものだが、お堂の前で大きな声を出すと気分はすっきりする。
歩き遍路にはいろいろなご利益がある。