「草の乱」

草の乱

私の住む櫛挽は戦後の開拓地であるため、実にさまざまな人生体験をもった人たちが暮らしている。開拓初代の方々もすでに年老い代替わりが進んで次の世代が中心となってきている。
貴重な経験をもった初代開拓者の話を聞くことは実に為になるし面白い、私がこの開拓地に住み着いてから40年を超えるので初代の皆さんも心を開いて本当のことを話してくださる。
90才を超える小池もとさんは未だに元気で、私などより耳の聞こえがよく頭も冴えている、私はちょくちょく伺っていろいろな話を聞いてくる。彼女は秩父出身のため子供のころ親に連れられて行った秩父遍路のこと、当時荒川には橋がなかったので舟で渡りお寺を巡ったことなどを次々と話してくれる。
彼女の息子さんは地区の自治会長を勤めており人望がある、ある時彼から「草の乱」と題するDVDを借り受けた、これは1884年秩父で起きた農民の武装蜂起事件を取り上げた映画で、これにお袋が赤ん坊のときのことが出ていると言った。俄然興味をもってDVD、本、WEB などで秩父事件のことを調べてみた。
小池もとさんは事件の首謀者の一人井上伝蔵氏の孫にあたり、伝蔵氏は死刑を宣告され一人北海道に逃れ身を隠した、死の間際自分のことを始めて井上伝蔵であると語ったとされる。
事件のことについて小池もとさんは多くを語ろうとしないが、今でこそ映画では伝蔵氏のことをヒーロー扱いしているが、当時の国の権力者に逆らった犯罪者として伝蔵氏の家族は辛い時代を送ったに違いない。
櫛挽開拓初代の方々が元気なうちに急いで話を伺っておかないと、いつ何時自分のほうが先にボケてしまうか分からない