芝居小屋

老夫婦3組で芝居を観に行った、それは夜7時から始まるという。
早めに夕食を渋谷駅に近い「くじら屋」でとった。
店はすっかり改装され、昔の面影はない。
楽しみにしていた鯨の刺身はほんのちょっぴり出てきた。
その味もすっかりお上品になっていて、鯨らしさが消えていたが値段だけはしっかりととられた。
私らの記憶にある鯨の刺身の味は、学生時代その寮で、腹をすかせて食べた塊のままのそれであった。

芝居小屋「ザ・スズナリ」は下北沢にあった、急な階段をよじ登って会場に入ると、そこには剥き出しの舞台があり、150人も入れば一杯で、なにやら怪しげな空間であった。
火事になったらどうやって逃げ出すのか芝居中心配していた。
聞くところによればこの周辺にはこのような小劇場が他にもあるようだ。

今日の出し物は「オールド・バンチ 男たちの挽歌」とあった。
出演者7名の平均年齢がなんと79歳で、最高90歳にはたまげた。
演出はプロであるが出演者はその道のプロとは限らない、演出家、劇作家、文学者、ミュージシャン等で、日頃は「ああせい、こおせい」と言ってる立場の人たちだ。
それぞれがその道では鳴らした人らしく、会場はそのファンと思われる人たちで満員であった。
カミさん達は出演したミュージシャン高橋悠治のファンであり、私のカミさんなどはその「追っかけ」に近い。

芝居の中味は銀行強盗団のドタバタ劇であったが、90歳が披露した「新内」はただごとではなく、贔屓の高橋悠治が急所、急所で奏でる電子ピアノは会場をシンとさせた。
出演者全員が80歳前後ともなれば、病気の一つや二つ抱えているだろうし、その記憶力も落ちているに違いない。
それが見事ノンストップで一時間半の公演に耐え抜いた、観客はたえず誰か途中倒れるのではないかと、心配し続けたがご当人たちはケロッとしていた。