1000円床屋

櫛挽の開拓地にきてからかれこれ40年ちかくになるが、床屋さんは最寄のT理髪店以外に行ったことが無い。いつの間にか息子どもと孫たちまで世話になっている。先方も初代が引退し私と同年代の二代目夫婦とその娘夫婦が店を切り盛りしている。これくらい長い付き合いになると、黙って椅子に座れば勝手に髪の手入れをしてくれる。こっちは気持ちよく居眠りをしていれば良い。

40年まえの理髪料金は定かでないが、たしかタマゴ一箱(10Kg)の代金で充分お釣りがきたと思う。他の店の料金は知らないが、いま3500円を支払っている。まごまごするとタマゴ三箱分の代金を持っていっても足りないことがある。その間、この理髪店は店を新築し内部設備も最新のものに取り替えた。三代にわたって同じ仕事を続けて行くには、それなりに努力が必要なのであろう。

先日、弟に会ったらもっぱら1000円床屋を利用しているという。私ども兄弟はいずれも髪の毛がうすい。若い時の最盛期に比べればどれも五分の一以下だ。それなのにふさふさした髪の男と同一料金とはけしからんというのがその理由らしい(たぶん)。弟の住む常磐線石岡駅の周辺にはすでに1000円床屋が2店舗できているという。兄貴も寄ってみたらということで次の電車まで時間があったので物は試し、恐る恐るその床屋に入ってみた。

若い男が西部劇のガンマンよろしく幅広の革ベルトに理髪道具を腰にさげて無愛想に現れた。ものの10分もしないうちに髪を刈り込み、最後は電気掃除機で頭を掃除してハイおしまい。ひげを剃ってくれるわけでなし、まして耳かきなどもってのほか。内部設備にもほとんど金をかけてないが、とても機能的で衛生的であった。なるほど、これなら1000円でも商売になる。どの商売でも油断しているとまったく新しい競争相手が出てくるものだ。