たまご屋おやじの独り言 香川県お遍路あとがき5 お接待

 遍路道を歩いているといろいろなお接待を受ける、最初のうちはその意味が分からなかった。たとえば歩いていると突然お婆さんが現れ私に向って手をあわせ、どうぞこれを受け取ってくださいと言い、アンパンをひとつ差し出す。私はどうしてよいのか分らず、あわててこちらも相手にたいして手をあわせお辞儀をしてからそれをいただく。
それがアンパンの代わりに熱いお茶一杯であったり、また小さな仏像であったりする。
それがごく自然に、またごくあたりまえのように行われている、不思議だ。
とくに印象に残ったのは「仁庵」の榊原夫妻である、85番八栗寺への急な坂道を喘ぎながら登っていると民家の軒先から声がかかった、「どうぞ一休みしていきなさい」といって縁側にお茶とみかん、チョコレートなどを用意してくれた。そこには歩き遍路の猛者と見受ける先客がいた。
私を加えて4人は時間を忘れて話がはずんだ、その猛者氏は60代後半と思われるが、「私はお遍路病にかかってしまい、野宿をしながらもう70日ちかく家に帰っていない」などと恐ろしいことをいう。
夫妻はといえば自宅をお接待の場所として開放し、もてなしをしながらお遍路さんとの会話を心から楽しんでいられる。
夫妻は挨拶の仕方から、会話の内容まで人品卑しからぬ人たちと見受けた。旦那さんは鼻に酸素吸入用のチューブをつけており、それでも明るく私たちをもてなしてくれた。
やはり四国のお遍路道は異次元の世界である。