たまご屋爺さんの独り言 八十路の楽しみ その五

たまご屋爺さんの独り言 八十路の楽しみ その五

 今から4年前、私は一人で四国八十八ヶ所霊場を歩き遍路をしていた。

今でも忘れないが徳島県の第十九番立江寺にお参りしたとき、本堂の前で般若心経を唱えていると、隣で変な外国人がたどたどしくそれを唱えていた。

偶然にもその晩、彼と遍路宿が同じであった。
話してみるとスイス人の若者で大きなリュックを担ぎ、どこでも野宿できる体制で歩き遍路を続けていた、日本語を話せないのに逞しい奴だった。

彼の英語のガイドブックには漢字にローマ字のルビのある般若心経が書いてあった。
「お前は日本で最高な旅をしているな!」と言って彼と別れた。

そのことがきっかけとなって遍路旅の締めくくりに高野山に詣で、般若心経の写経用手本を手に入れた。

以来写経を続けている、本当は筆で書きたいのだが手が震えて書けない、ボールペンで我慢している。
この283文字の漢字を暗記でノートに書き続けるわけだが、未だに間違える。
その間違える数によってその日の頭の状態が分かる。
だが書き終えるとささやかな達成感がある、これが何とも言えない。

気の向いた時にぼつぼつと書いているのだが、それでも今朝で684枚目になった。

どうやらこれは八十路でも続けられそうだ。