たまご屋おやじの独り言 2003年5月

たまご屋おやじの独り言 2003年5月


27/May/03

<日本たまご事情>食の安全性に無関心?

先日、"彩の国スプリングフェスタ"に出かけた。それは埼玉新都心さいたま市)のけやき広場で開催され週末のため多くの人達で混雑していた。"暮らしのとなりが産地です"のスローガンのもとに埼玉県の農産物が出品され、それらは飛ぶように売れていた。

私どもの農場でも普通スーパーマーケットで売られていないジャンボ卵だけを売りに出した。生産者の顔が見えるように店先にパソコンをおき、卵パックに印刷されたホームページのアドレスを打ち込めば農場の様子、安全な卵を生産する仕組み、飼料の種類、鶏卵生産の基本的ポリシー等など、、、情報は沢山用意しておいた。

隣のブースでは埼玉県産の牛肉についても、一頭ごとにその飼養履歴がわかる、いわゆるITを駆使したトレーサビリテイの仕組みを説明していた。

あれほどBSE騒ぎがあり、食の安全性を問われたのに、消費者の人たちにはこの問題にいまいち関心がない。残念ながら卵についても同じであった。「喉元過ぎれば熱さ忘れる」のせいか、単なる無関心なのか、はたまた生産者の言う「安全性」をまるで信用してないのか・・・。

ただひとつ気が付いたことがある。この種のフェアーでは従来農産物を安く売って人を集めていたが、どうも最近は様子が違う。ここに出ている農産物は皆しっかりした値段で売られていたし、卵も決して安く売らなかった。それなのに売れるのである。

つまりそこには、それを作った親父さん、おかみさん達がいたからに違いない。本当の顔の見える関係である。難しいITによる説明よりもよっぽど力がある。これは農産物販売の原点であるに違いない。

18/May/03

ぶらりぶらり通信 ならないタイコ

人の縁とは不思議なもので、深谷市在の御村先生とはまだお会いしたことがないが、もう十年以上お付き合い頂いているような気がする。

あれは確か一年前、病院の待合室でふと手に取った一冊の本「ならないタイコ」に始まる。この本は先生が永年の教員生活を引退されたのを機会に、書き続けておられた個人新聞を自費出版で本にされたものである。新聞は毎月一回発行で現在420号を超えるから、もう30数年書き続けたことになるようだ。

その時その時、心に感じたことを自分の言葉で率直に毎回千文字前後に纏めていられる。私が心を打たれたのは先生が50歳代の現役のころ心筋梗塞に倒れ生命をかけた手術を乗り越えられ、尚この新聞を書きつづけられていることにある。

お好きな絵、書の話に始まって、病気をしてみて初めてわかる人生の機微等など話題は豊富で尽きることがない。文章はなんの衒うことも飾りもなく淡々としたものだが中味は濃い。人生の達人とはこういう人のことを言うのだろう。

先週、先生から頂いた手紙に触発されて、一枚の絵を東京近代美術館へ見に行った。この絵「信仰の悲しみ」は19歳の関口正二が描いたものだが、これを描いて一年後に彼は亡くなる。それは大正8年のことであった。

この絵はいつもは倉敷の大原美術館にあるものだが運良く東京に来ていた。、先生はたった一枚のこの絵を見るために倉敷まで出かけたのだそうだ。

興味があれば下記ご覧ください。
http://www.ohara.or.jp/pages/tenji_pages/tenji_sekine.html

そんなわけで月一回郵送されてくる新聞「ならないタイコ」が楽しみだ。そのうち先生の好きな焼酎「二階堂」をぶらさげて会いに行こう。

17/May/03

「家畜防疫互助基金造成等支援事業」とトリインフルエンザ(AI)(5/17)

昨日(5/16)地域の家畜保険所で自衛防疫事業推進会議があった。この会議は地域家畜衛生協会の主催するもので、この地域の牛、豚、鶏の生産者と市町村の担当者が集まった。

議題のなかに「家畜防疫互助基金造成等支援事業」(新規)なるものがあり、これは過去2年間にわたる「海外悪性伝染病互事業」が形を変えて継続されたものだ。対象は牛豚のみに限られ、口蹄疫ほか5種類の疾病に生産者と政府の資金積み立てによって、いざと言う場合その互助の仕組みが働くようになっている。

ひがむわけではないが牛豚は鶏に比べて政府の資金で手厚く保護されている。この新規事業でも鶏は仲間はずれだ。病気の危険性では口蹄疫もトリインフルエンザも同じレベルと考えられる。
この互助基金は鶏の場合に換算すれば、生産者が鶏一羽一円/年積み立てれば事故があった場合一羽千円以上の経営継続資金ならびに死体処理費用が出る事になっている。

海外でのトリインフルエンザの惨状をみると、もしこれが日本国内で発生すればいくら自主独立の気風の強い養鶏業界でも自力では持たない。その為の保険として是非「家畜防疫互助基金造成等支援事業」にトリインフルエンザを加えてもらいたい。そしてこの運動を養鶏生産者各人が地域、県、国のレベルで始めることだ。

13/May/03

ドイツ、中国 AI速報(5/13)

齋藤 富士雄@愛鶏園です。
5月9日ドイツで初めてのAI発生が疑われた農場は既に殺処分されているが、5月13日ドイツ政府により正式にそれはAIであると確認された。この農場はオランダ、ベルギーの国境にちかく、移動禁止をしても陸続きの場合AI等伝染病を食い止めることが難しいことを示している。

日本政府はいち早くドイツからの家きん肉等の一時輸入停止措置をした。
http://www.maff.go.jp/www/press/cont/20030512press_3.htm

また同時に中国から輸入したあひる肉からAI(H5N1)ウィルスを検出したので一時輸入停止措置をした。
http://www.maff.go.jp/www/press/cont/20030512press_5.htm

10/May/03

<日本たまご事情>等々力(とどろき)の蜜蜂

ちょっと脱線します。世の中には愉快な人がいるもんで、話をしているとこちらまで嬉しくなってしまう。古い友人渡辺さんのことである。

ゴールデンウィークの一日、東京等々力の渡辺さん宅をに訪ねた。彼は現役を引退してから、ここ等々力で蜜蜂を飼って立派に蜂蜜を取っているのだと言う。それも半端な数ではない。自宅の屋上には養蜂箱が3ヶ、近くの奇跡的に残った畑の隅を借りて7ヶ、計10ヶを持つ立派な養蜂家である。養蜂箱一つにつき5万匹の蜜蜂が働いているという。

よくこんな住宅街で花の蜜が見つかるものだとあきれていると、彼はすましたもので大東京だからこそ花があるのだと言う、なるほど?! 彼の蜜蜂たちは隣の自由が丘にある高級住宅の庭まで出張して独占的に蜜と花粉を集め、お返しに受粉を手伝ってくるのだと彼は意気軒昂である。蜂同士どの方角にはなんの花が咲いていて良い蜜がとれると教えあっているという。ほれこの羽を震わせているのがそうだと指差されてもこちとらにはさっぱり分らない。彼は蜜蜂と会話ができるのであろう。

もっとも渡辺さんは現役の頃、飼料会社の研究開発部門で働き、養蜂のプロになり、世界的な蜜蜂ネットワークを築いた男である。蜜蜂にのめり込み、引退後は都市養蜂?のパイオニアとなっている。絞りたての等々力の蜂蜜を水割にしてご馳走になったが、お世辞ぬきで旨かった。

都内で養蜂をやっているのは彼だけだから、もし東京で蜜蜂に出会ったらそれは渡辺さんのそれに違いない。

10/May/03

ドイツ、ベルギー、オランダ AI速報(5/10)

5月9日(金)ドイツで始めてAIの疑いで32000羽の鶏が殺処分された。一次検査では陽性で来週中に本検査の結論がでる。その農場はオランダ国境に近いViersen にあり、ドイツの西部に位置する。発生の疑いのあった農場の半径1Km以内の家禽はすべて処分され、道路は封鎖された。

心配されていたドイツにもAIの感染が疑われるようになった。現在日本の採卵鶏の主力鶏種はドイツ由来のものであるから、その影響が心配される。既にオランダは種鶏の輸出禁止になっているので、日本に影響が出ている。

5月7日現在、オランダではAIの感染農場数は260に達し、淘汰された家禽類の総計は25百万羽に達する。オランダ国内の総家禽数は1億羽といわれるからその25%を既に失ったことになる。

ベルギーでは現在AI感染農場は8ヶ所で、処分されたのは2,3百万羽になる。幸いなことに4月28日以降新たな感染はない。

2/May/03

ぶらりぶらり通信 借景の庭

数年前、渡瀬の名物郵便局長浅田さんに連れられて神流川に面した原本家の天神山庭園を訪ねたことがある。有り難い事に新緑のころになると、ある期間原本家個人の庭を一般に開放してくださる。今年もその緑と清流が見たくて訪ねた。

ご存知のごとく埼玉の初代原善三郎は明治時代生糸で財をなし、横浜に出てさらに2代目の原富三郎(三渓)もさらに事業を発展させ、横浜市民にとって忘れてはならない人となった。横浜市の有名な「三渓園」は原家の私邸であったもので、現在では市が管理しているがその庭園と集めた由緒ある建物はけた違いのスケールのものだ。
http://www.yurindo.co.jp/yurin/back/396_2.html

実のところ私は原家の二つの庭園を見てみて、この天神山庭園のほうが好きだ。神流川の清流をまるで自分の庭の一部として取り込んでしまう豪快さと、自然をそのまま生かした樹木群、目に見えないところで手を入れている庭の造り、風景にあった品の良い日本家屋、、、。当時、明治の元勲たちがここを訪れたわけも肯ける。明治時代の日本人の美意識とはこういうものかと納得させられる。

緑に包まれた神流川の水面には野生の鴨と鯉が遊び、これほど見事な借景の庭を見たことが無い。そこにはヨーロッパ、アメリカでは決して見ることの出来ない日本の風景が拡がっていた。

3/May/03

平成14年食中毒事件発生状況 卵が原因の食中毒(患者数)さらに減少(5/3)

5月1日、「平成14年食中毒事件発生状況」が労働厚生省より発表された。
http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/index.html

食中毒発生状況(平成8年〜平成14年まで)
       卵が原因の食中毒  件数   患者数  死亡数
平成 8年 2人以上 35    3,049     0
平成 9年 2人以上    37   2,012     2
平成10年 2人以上    43   1,899     1
      1人以上    46   1,902     1
平成11年 1人以上    38    976     0
平成12年 1人以上    42   1,043     0
平成13年 1人以上    35    460     0
平成14年 1人以上    21    298     0

この7−8年の傾向をみていると、卵が原因の食中毒(患者数)は劇的に減少してきている。これは鶏卵の生産段階、流通加工段階、消費者段階がそれぞれが卵のサルモネラ対策に力を入れたために違いない。

よく外国の鶏卵関係者に「日本は卵を生食するのに何故卵によるサルモネラ中毒が少ないのか?」と聞かれる。それに対して「日本には魚の生食文化があり、消費者は鮮度について物凄く敏感で賢く、卵についても選別が厳しいからだ」と答えることにしている。