病気の効用 その二

脳梗塞をやってから脳の機能が変わったらしく、突如手当たり次第に音楽を聴きだしたことは、私にとって、まさに突然変異が起きたみたいなことである。静かに音楽を楽しむと言えば格好がいいが、実情はそうはいかない。宴会で調子のはずれた演歌をがなるのが精一杯の不器用な男が、いきなりクラシックでもあるまい。とにかく年月をかけた音楽の蓄積というものがない。ところが不思議なことに、なにを聴いても楽しいのである。

もうひとつ。
突如落ち込んだ脳と身体の機能回復に、嫌がる私をカミさんはスクエアーダンスの講習会に連れ出した。日曜日の夜、公民館で週一回三時間で、もうかれこれ二年続いている。当初これが嫌で嫌で仕方がなかった。初めて参加したときに、もうすぐにやめたくなっていた。歩くだけのダンスであるが、簡単な動作が出来ない。回転すれば眼がまわる。10分もしないうちにフラフラになってしまった。

どこの公民館活動もオバサン軍団が元気がよい。特にスクエアーダンスともなれば男どもは哀れなものである。隅のほうで小さくなっている。このオバサン軍団に揉まれて、耐えがたきを耐え忍び難きを忍び(?)二年間、今では切れていた脳の回路も少し繋がってきたらしく、最近は二時間踊っていてもフラフラしなくなった。それどころか、先日行われた埼玉県の大きなスクエアーダンス大会に派手な衣装を着て出るほどの図々しさだ。

音楽を受け入れる脳といい、このスクエアーダンスといい、おそらく脳梗塞をやらなかったら一生私には縁が無かったであろうと思うと不思議だ。