秩父歩き遍路 その八 満願

今日で八日間にわたる秩父歩き遍路も満願となる、34番水潜寺を残すだけとなった、皆野駅から西武バスに乗って馬頭尊前で下車、遍路古道を立札峠を越えて3時間山道を行けばそこに着く予定。
バスを降りると後ろから大きなザックを背負った一人の青年が歩いてきた、聞けば野宿をしながらの歩き遍路であるという、今日が六日目でやはり満願であるとのことだ、こちらも嬉しくなり一緒に山道を行くことにした。

青年の健脚をもって秩父札所34ヶ所を順番に回って行くと、最短で5泊6日かかるそうだ、彼は一日の汗を谷川の水浴びで流し持参のテントで野宿し、食料は途中で調達しながら歩いている、「そうするのが一番お金がかからない」と明るく笑っていた、実に頼もしい青年である。
大の大人でも山歩きしていると恐ろしい雰囲気を持った場所に出くわすことがある、秩父の遍路古道はそれが特に多い、そのような場所に一人野宿することもあったであろう、生身の人間が山の霊気にじかに触れる時である、彼にとって貴重な体験となるに違いない。

立札峠の頂上で青年と別れ、彼に会って元気がでた相棒と私は予定外の破風山に登り、頂上は曇っていて視界は効かなかったが良い気分であった、倒木と奇岩が続く湿った山道を下って水潜寺にたどり着いた、最後の納経をすませ、誰もいないお堂の前で大声で短歌を詠い、般若心経を唱え、無事遍路を終えたことを声をだして感謝した。

「満願の湯」で風呂だけ入れてもらい、バスで皆野駅にもどり、いつもは蕎麦ばかり食べていたのが、今日は駅前の鰻屋「吉見屋」で上の鰻重をはりこんだ、なにか肩の荷がスーと降りた気がした。