秩父歩き遍路 その四

今日はとても景色の良いところを歩くことができた。
札所19番龍石寺から24番法泉寺は荒川をはさんで秩父市街の対岸にあり、小高い丘から荒川越しに町が見下ろせる、市街地からいくらも離れていないのにまるで別世界のようだ。

江戸時代、秩父の札所めぐりのブームが起き、江戸から徒歩、駕籠、馬などで多くの遍路者が訪れたと記録に残っているが、ここで当時水量の多かった荒川を舟でわたり崖上の20番岩之上堂にたどり着いたのであろう、その岩だらけの古道がいまでも残されている。
このお堂周辺のかもし出す雰囲気はなんとも言えづ静寂で、しばらくは納経を忘れるほどであった。

嬉しいことに今日歩いたところは、江戸時代の遍路古道が良く保存されていて、それを辿ることが出来る。
前回と違って車の交通を心配することなしに、のんびり歩くことが出来た、道端に自生している大きな桑の木には熟れて紫色になった実がついていた、子供のころを思い出し口が赤くなるほどこれを食べた、昔の甘酸っぱい味がする、もう今はこれを食べる子供たちは居ないらしい。

歩き遍路のご利益は札所で大事にされることだ、特別ということはないがなんとなくその気配が感じられる、22番童子堂にたどり着いた時、ここの堂守りは一人のお婆さんがしていた、寺の坊さんは時々通ってくるのだそうだが、納経をすませると縁側でお茶を飲んでいけという。
自家製と思われる小さな梅干と「しゃくし菜」の漬物が出されお茶を淹れてくれた、この「しゃくし菜」というのは私は初めてであるが、なんでも秩父特産だそうでとてもいける。

道中、法泉寺の近くで「そば処長尾根」に立ち寄った、ちょっと淋しい店構えで心配したが店内は近くの人と思われる客が入れ替わり立ち代り来ていた、ざる蕎麦と山菜のてんぷらはまあまあ、とにかく歩いて腹が減っているので何を食っても美味い。

仕上げに「巴川荘」の古代檜風呂に入れてもらった、入浴料700円なり。
なんでも千年を超える檜が倒木してから更に数百年たち、その腐敗しない部分を使用して作ったと能書きに書いてあった、宿のカミさんに何処からその材料を手に入れたのと聞くと、なんでもヒマラヤの近くから輸入したという、話は大分怪しくなってきた。
しかし浴槽の肌触りと色具合は他に例はないほど気持ちの良いものであった、あるいは本当の話かもしれない。