画狂老人

たまご業界の新年顔合わせが浅草「今半」であった、ここは旨い「すき焼き」で名前が売れてるそうだが、確かに霜降りのみごとな牛肉が出てきた、一緒に出てきた生卵の黄身は気持ちが悪いほど赤味が強かった。
「すき焼き」は若いときから大好物であったが、歳をとるにつれてあまり好きでなくなった、特にサシの入った霜降り肉は胃にもたれるようになり若い連中にその肉を回すようになった、なさけない話である。

動物蛋白質や脂肪分不足の時代は、それこそ「すき焼き」はその両方を補う大事な料理であり、肉の旨味が脂肪に溶け込みそれは美味かった、だが全体に運動不足とカロリーオーバーの時代になると、この名物料理も苦戦を強いられているらしい。
霜降り肉は脂肪を蓄えるために、たくさんの飼料を必要とする、飼料原料高騰時には贅沢な食べ物となる、これから当分飼料原料の世界的な奪い合いで高値が続く。

浅草まで来ていたので、帰りに両国の「江戸東京博物館」により、私の好きな「葛飾北斎」展を覗いてみた、2005年秋東京国立博物館で大規模な北斎展を見ているのでどうかなと思ったが、驚くほど私にとって初めて見るものが多かった。
今回一番たまげたのは「画狂老人北斎」が83歳のときに描いた「生首図」である、おそらく彼のことだから斬罪された罪人の生首を前にしてこれを描いたに違いない、これほど陰惨な北斎の絵を見たことがない、彼の怪談話の絵でも恐ろしいよりどこか愛敬のあるのが多いが、この絵だけは違っていた。

霜降り肉の食べすぎでもたれた胃は、この絵を見たことですっかり調子をくずしてしまった、みずからを画狂老人と名乗った北斎のとてつもない凄さである。
江戸時代のスーパー老人である彼がいま生きていたら一体なにを描くのであろう。
ちなみに江戸東京博物館の「北斎展」は1月27日まで。