たまご屋おやじの独り言 2000年7月

たまご屋おやじの独り言 2000年7月


28/July/00

イギリスたまご事情(7)ドットコムに挑戦する若者達

The Royal Show(英国王立農業博覧会)を訪ねました。このShowでイギリスの養鶏仲間と二日間過ごしたのですが、じっくりと見たらあと3日間はどうしても必要なほど、まあとてつもない大規模な博覧会でした。

それはともかくとして、何事も伝統を守り、新しいものにはそう簡単に飛びつかないイギリス人気質であっても、ことIT革命についてはおっとり構えているわけにはいきません。同行のGriphiths氏によればこの農業展覧会でIT関連のブースは近年数倍になっているとのこと。ちなみに彼の愛用しているホームページを作成しているブースを訪ねてみました。そこは人だかりがしていて若い連中がワイワイと口に泡をとばしているとても活気のある場所でした。

ところでこのGriphiths氏なのですが、イギリス養鶏界の重鎮でもう70歳になろうとしてますが、とても元気です。最近彼の事務所に据え付けたPCがお気に入りで、
「最近俺の見つけたとっておき秘密のHPのアドレスを教えてやるから、お前の日本のそれを教えろ。」
と言ってウィンクします。家族経営で成鶏100万羽、畑400Haで小麦、ジャガイモなどを作っています。彼お薦めの秘密でないほうのHPは・・・・。
http://www.farmshop.net/directory/default.asp

22/July/00

イギリスたまご事情(6)高密度鶏舎

イギリスの夏は日本のそれとはまったく異なる。訪ねた時が7月の始めであったが、日本で30度を軽く超えているときにこっちでは20度前後であり、雨が降ると肌寒いほどであった。さすがに日が照ると25度を超えるが、日常生活で家庭や車にクーラーは必要ない。

異常気象でもないかぎり暑さで鶏が死ぬことはない。高密度のバタリー鶏舎でも、あまり夏の高温対策はしていない。最新の一棟16万羽収容、9段バタリー鶏舎を見学する機会があったが、通常は自然換気をうまく取り込み夏季のみ強制換気することで事足りている。

訪ねたその日は7月と言うのにまだ強制換気はしていなかった。これほどの高密度にもかかわらず舎内の空気の質は素晴らしく成績が出ていることをうかがわせる。この鶏舎をそのまま日本に持ってきた場合、北海道を除いておそらく夏をやり過ごすことは難しいが、イギリスの暗くて寒くそして永い冬を過ごすには鶏にとって快適であろう。

動物愛護活動はイギリスで最も盛んであり、このような高密度飼育のバタリーシステムは攻撃の矢面にさらされるが、イギリスの冬は鶏にとって厳しく自然に近いFreeRangeの飼育方式では産卵を継続することが難しいであろう。2012年以降バタリー飼育は禁止とのEU決定があるが、実際のイギリス養鶏家はそんなこと出来るわけがないと吐き捨てる。

22/July/00

イギリスたまご事情(5)恐ろしい話

IEC(InternationalEggCommision)の統計専門家MarkWilliamsと話していて驚いた。イギリスたまご業界が過去30数年の間に経験したことはとても劇的であった。{鶏卵消費量の減少、30年間で三分の二になる}

Egg Consumption/capita/annum(年間一人当たり鶏卵消費個数)
1960 - 258
1970 - 275 (100)
1980 - 236
1988 - 181
1993 - 173
1994 - 172
1995 - 167
1996 - 170
1997 - 171
1998 - 170
1999 - 170 ( 63)

減少の最大の理由は「たまご・コレステロール・心臓病」神話の流布(現在では完全に否定されたが既に手遅れ)と、政府高官による「たまごとサルモネラ食中毒発言」。この話になるとイギリスの養鶏仲間は途端に機嫌が悪くなる。この間、養鶏家は塗炭の苦しみを味わった。

18/July/00

イギリスたまご事情(4)洗う洗わない

イギリスはとても頑固な国である。いやヨーロッパ全体に言えるのかもしれない。ご存知のとおりEUはタマゴを選別パックするとき水洗できない。汚れたタマゴは洗うことが出来るが、これはB級品である。国民も多少タマゴに鶏糞がついていてもガタガタいわない。タマゴは自然のままが一番良いのであり、神様はヒナになるまで21日間高温でも腐敗せぬよう配慮してくださっている、人間の小賢しい智恵など問題外、としている。

ところが現実にはこれで生産者は大変苦労している。EUの鶏舎、鶏卵選別包装装置は確かにアメリカ、日本のそれらより汚れ卵の発生が少ないのはこのためである。イギリスの養鶏家の本音を聞くと、「我々もアメリカや日本のように水洗したい、コストは下がり安全性も増す」「サルモネラ食中毒はタマゴが原因と言われるが、水洗してないヨーロッパに多く、比較してみてアメリカ、日本が少ないのはどう言うわけだ」「サルモネラ菌はタマゴの内部にいる確率よりその表面にいる確率が断然多い。温水による水洗が有効だ」「FreeRangeなど平飼い飼育のタマゴがサルモネラ問題を大きくしている」・・・・・・・・
などなど議論はつきないが、頑固な国民はそれを許さない。

18/July/00

イギリスたまご事情(3)Free Range Egg

同じくイギリスDeansFoodsでのこと、

1:イギリス得意先別鶏卵消費(1999−2000)
  小売         60%
  食品サービス    21%
  加工         19% 

2:鶏卵生産形態別、マーケット別(1999−2000)
            Cage     FreeRange    Barn
  小売        70%        22%       8%
  食品サービス   97          3        −
  加工        95          4.5        0.5

との説明があった。日本のマーケットとの最大の違いはこのFreeRange,Barn卵の存在であろう。日本の特殊卵に匹敵していて高付加価値卵である。5−10割高で売られている。FreeRangeとBarn卵の区別をどのようにしているのか明確でないが、とにかく平飼いであることには違いない。このマーケットが小売で30%ある。

ここに集まったイギリスの養鶏仲間はいずれもこの平飼い卵のことになると肩をすくめる。50年前の苦労した飼育方法がCage飼育より優れているとは思えないからだ。だがお客がいればなんでも作るさと言ってまた肩をすくめる。

18/July/00

イギリスたまご事情(2)生産販売の中心

イギリス最大の鶏卵生産販売会社DeansFoodsを訪ねる機会があった。積極的な買収を重ねて現在500万羽の直営農場と350万羽の契約農場があり、主としてイギリス北部を中心に事業を展開している。

そこを訪ねたグループのなかには一番の競争相手のStonegate社のトップの連中もいた。ここが約500万羽であるから次のThamesValley社をふくめて恐らく3社でイギリスの卵の二分の一は生産販売されている。アメリカでもこれほどの集中はない。良い悪いは別にしてここに養鶏業界の縮図がある。何故これほどの集中がイギリスで起きたのであろうか?

同行のGriffiths氏に聞いてみると、
1:急激な鶏卵マーケットの縮小(鶏卵消費量270個から現在170個)による競争激化
2:殻ツキ卵のマーケットを流通大手4社が押さえている、これらの要求に応える業者の減少
3:EU市場内おいてイギリスの鶏卵生産の競争力の低下
、をあげた。

12/July/00

イギリスたまご事情(1)

イギリスの養鶏仲間との雑談で有力紙「Daily Telegraph」7月5日の記事が話題になった。その要点は、「日本人は世界で一番タマゴを食べる(330個)のに、心臓病の発生率では最も少ない国の一つである」であり「我々イギリス人が今までタマゴは心臓に悪いといわれ年間270個食べていたのを現在170個に落としても、その発生率は変わらない。しかるに日本人はどうだ」であった。

その為に日本では特別なPRを鶏卵関係者はしているのかと聞くから、
「やってないとは言わないが微々たるものだ。それより国民が賢いからタマゴを食べると世界一の長寿になれることを知っているのだ。」
と言った。実に痛快であった。