「別れの会」 

また同級生の一人が亡くなった。寂しいかぎりである。彼は東京出身で高校時代ラグビーをやり、タフで存在感のある男であった。企業戦士として任地福岡県、秋田県で活躍し、仕上げは東京で頑張った。福岡県久留米市で素晴らしい奥さんにめぐりあい、一男一女に恵まれた。子供たちは既に結婚し、それぞれの生活をしている。

最近、娘さん夫婦の住むさいたま市に引っ越してきたと聞いていた。一年ほど前、クラスの同期の者たちで山梨県昇仙峡に遊んだ。その時は元気で、自分が病魔におかされていることなど一言も愚痴をこぼさなかった。ただ坂道をみんなで登るとき辛そうであったのを覚えている。今年の5月頃自分の死期を悟り、病床で家族といままで世話になった人たちに向けて「自分史」を書き始めた、と奥さんは話しておられたが、その心境を思うとたまらない。自分の「別れの会」の段取りまでつけて、彼は逝った。

「別れの会」は彼の遺言どおり、無宗教で彼と縁の深い者たちが集まり、質素に行われた。奥さんは夫のことを静かに語り、息子はオヤジについて話し、娘さんはお父さんの書いた「自分史」を涙を抑えて朗読した。参加した全員が彼の思い出を話した。それは家族にとっては初めての話であったに違いない。

それはとても心に残る「別れの会」であり、感動した。彼は死ぬまでタフな男であった。
ご冥福を祈るのみ。