ミニホース

 
二頭のミニホース(ロバくらいの小型馬)が我が家にやって来たのは、もうかれこれ10年も前になるだろうか。
鶏舎の間にある空き地に小屋を作りいつもは放し飼いにしてある。
馬の餌は朝晩二回牧草、ふすま、アルファルファのペレットなどを与える、あとは桶に水を切らさなければ大丈夫。
雨が降ろうが雪になろうが勝手に好きなところで過ごしている、丈夫なものだ。

世話は娘のKと朝晩手分けしてきたが、その娘が横浜へ移動してしまったので弱ったことになった。
あれこれ思案の末、知り合いの観光農園を経営する酪農家に二頭そろって引き取ってもらうことにした。
いざ別れるとなると、急に淋しくなったりした。
この二頭は雄雌で、あわよくば子馬を増やして一儲けしようと企んだが見事に失敗した。

10年間いっこうに子馬の産まれる気配がない。
正確に言うと牡馬はいつでもやる気満々で、彼女に仕掛けるのだがどうも上手くいかない、見ている方がイライラさせられてしまう。
しまいには彼女が嫌がって彼を蹴飛ばしたりする。
無理な品種改良を続けると繁殖能力が落ちるのか、我が家の彼が特別下手くそなのかわからない。
そのくせ予防注射の時など二頭を引き離すと、お互いに泣き叫んでまことに仲がよろしい。

元気の良い二頭は時々柵をやぶって逃げ出した、普通は放っておけば餌場のある元の場所に帰ってくると思われるが我が家の彼らはそうではない、方向音痴でとんでもない所ヘどんどん行ってしまう。
畑に作物がある時などは悲劇である、畑の美味しいご馳走を腹一杯に食べてくる、あとで謝りに歩くのも一仕事であった。
十年ちかく生活を共にしていると、それはなにか日常リズムの一部になっているようだ。
散々てこずらした彼らであるが、いざ居なくなって見るとポッカリ穴があいたようだ。