清貧の思想

清貧の思想

 80歳になる大先輩の原田さんが投稿しているメールマガジンが月一度届く、それをとても楽しみにしている。
実はこのメールマガジンは原田さんが70歳のとき創刊され評判をとったもので、その顛末を岩波アクティブ新書から「メールマガジンの楽しみ方」として出版されている。
現在は既にメールマガジンの編集発行は後輩に託していて、本人はもっぱら昭和の語り部として健筆をふるっている。

最近号のそれには今から10年ほど前ベストセラーになった「清貧の思想」の著者中野孝次氏の死について触れていた。
中野孝次氏が余命一年のガンを告げられたとき,本人の悩み、それからの解脱、そして死が、本人の日記と奥さんをとおして語られていた。

日頃偉そうなことを言っている学者でも、いざ自分の死を目前にしたとき動転せざるを得ないであろう。
その時、自分が日頃主張している考えに従って悠々と死を受け入れることが本物の証になる。
原田さんは中野孝次氏の思想は本物であったことを告げたかったに違いない。

当時「清貧の思想」は読んだ記憶がある、10年前といえば元気の盛りであったので読んでもあまりピンと来なかった。
本棚をひっくり返しそれを見つけ出し、改めてじっくりこれを読んでみた。
10年の歳月は読み手を変えていた。
著者の引用している「徒然草」の吉田兼好や、「おくのほそ道」の松尾芭蕉の言ってることが少しは「なるほどな」と思えるようになっていた。