ゴールデンウィークの始めにカミさんの弟が亡くなった、享年66歳であった。
私とながく養鶏の仕事で苦楽をともにしてきただけに言いようもなく悲しい。
彼夫婦は6人の子供たちを育て上げ、50代の半ば自分の考えがあって仕事を引退した。
以後、千葉県鴨川市の山奥に古い草葺屋根の農家を手に入れ、奥さんと二人だけで移り住んだ。
コツコツと二人で住宅を改造し自分たちに合った空間を作り上げていった。
せっかく作った農作物も猪によく食われてしまうと笑っていた、今でいうスローライフを時代に先駆けて楽しんでいた。
傍目から見れば仙人みたいな生活も、本人たちにとっては天国であったのだろう。
半年前、身体の不調を感じ病院で診てもらったところ、すい臓がんの末期で、余命ながくて半年を知らされた。
彼は腹を決め、手術、抗がん剤、放射線治療などを拒否し、代替治療のみを受け入れた。
幸いなことに痛みも来ず、間際まで自宅で過ごすことが出来た。
今年の4月になって入院した時、週末に子供たちや孫たちが見舞いに来るのをとても楽しみにしていた。
亡くなる前の週末、多くの子供たちや孫たちを前にして彼は突然歌いだしたという。
「私のお墓の前で 泣かないでください
そこに私はいません 眠ってなんかいません
千の風に
千の風になって
あの大きな空を
吹きわたっています」
聞けば新井満の「千の風になって」という歌だという、そして彼は逝ってしまった。
彼は最後まで自分の意思を通した男であった。